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トラウマ 心理豆知識

【解離】「子どもの頃の記憶がない」~解離性健忘に焦点をあてて~

2021年5月19日

 

今回は、トラウマティックな体験や機能不全家庭で育った場合に現れることの多い

「解離」という症状について触れていきます。

 

「軽度の解離」についてはツイッターやこちらの記事(「ある性被害サバイバーの話⑧」)で述べましたが、

ここではもう少し深く「解離」について理解したいと思います。

 

「解離」は、その症状の種類や程度が多岐に渡り複雑です。そのため、この記事では解離の全てではなく、一部を取り上げます。

 

今回は、「解離を起こす基本的な記憶のメカニズム」の整理と、

「一定期間の記憶がない」に代表される「解離性健忘」に焦点をあてて理解していきたいと思います。

 

「どうして記憶がないのか」「離人感に苦しむのに、緊張が続いてもいるのはなんだろう?」といったような状態を少しでも理解できたらと思います。

 

解離とは?

解離とは、「体験・体感の一部を失うこと」といえます。

「全ての記憶を失う」ことも解離に当たりますし、「一部の感覚を失う」ことも解離です。

意識や記憶や感覚をまとめることが一時的にできなくなる状態です。

「体や心が分断された感じ」と表現されることが多いです。

 

「解離」は、その人の「自分という一体感および連続体の喪失」と捉えることができるかと思います。

 

解離の症状は多岐に渡り複雑

「解離」というのは連続体であるために程度や種類の幅が広いです。

病名としても「解離」が「症状」になっている「PTSD」や、

「解離性健忘」「解離性とん走」「解離性同一性障害」など、多岐に渡ります。

「記憶がなくなる」という症状はもちろんですが、

「身体感覚がわからなくなる」「自分が自分でないような気がする」「夜中に出かけたようだけど覚えていない」「悲しいはずなのに涙が出ない」「ほんの一瞬、意識がなかった」などなど、

解離の症状と程度は本当に複雑で多岐にわたります。

 

「解離」とは「自分」の分断

いずれの場合も共通するのは「自分という一体感および連続体の喪失」であり、

過去の記憶にしろ、現在の記憶にしても、体の感覚も心の動きも、「解離」で分断されてしまいます。

 

なぜ解離が起きる?

「解離」がどうして起こるのか、実際のところ解明されていません。

しかしながら、「虐待を代表とするトラウマ体験を抱える人に発症する」ことから、心理的防衛反応として解釈されることが一般的です。

解離は、出来事に対する感情あるいは痛みなどの感覚が、そのときの自分の許容量を超えていたときに起きると考えられます。

 

「記憶」とは?

少し話を広げます。

そもそも私たちの記憶は、出来事のみを記憶するのではなく、出来事は感情とリンクされて「記憶」されます。

なので、一般的には「出来事に対する感動が強いほどはっきりと記憶される」といえます。

しかし、その感情が抱えられないほどの衝撃であったり、認識できない空虚さの連続であったとしたら、

感情を心の奥底にしまいこみます。

そうすると、感情だけではなくリンクされた出来事も一緒にしまいこまれて、記憶から消される現象が「解離性健忘」であると考えられます。

そして、幼少期に解離が起きると、成人後も解離しやすいと言われています。

 

「生き物」としての生存本能

一方で、「生き物」として人間を理解しようとすると、

「精神的に抱えきれないほどショックな出来事を経験した」ということは、「生命危機」に値します

だとすると、今後生き延びるために、そのような危機的状況を忘れるわけにはいきません

忘れずに緊張したまま危機を回避しなければなりません。

それによって、「人に対して警戒心を強く抱き続ける」「眠れない」などの過覚醒を引き起こしたりします。

 

拮抗する作用

つまり「認識すると生きていけないほどのストレスから身を守るために記憶から消す」という作用と、

「命の危険を及ぼした出来事を忘れるわけにはいかない。しっかり記憶に残して次の危機に対処しなくてはいけない」という

真逆の作用が同時に起きてしまうということになります。

 

このようなあらゆる防衛反応や生存本能が働いた結果、記憶の仕方が正しく行われず、

「解離」や「過覚醒」などのあらゆる症状が出現するのかもしれないと考えられます。

 

幼少期の「解離性健忘」

ここからは、「子どものころの記憶がない」「ふわふわしていた記憶しかない」といった「解離性健忘」に焦点をあてます。

 

幼少期に虐待を受けると「記憶がない」あるいは「自分が自分ではない感覚」等という解離を起こす可能性が高くなります。

「幼少期」という時期になるのは、成人ほど自我が育っていない状態であるために、

自分の内面が耕されていないままで尊厳を蹂躙されてしまうことは心の混乱を招きます。

自分の内面ができていないので、「つらいのか悲しいのか」といった感情の中身や

「何がしんどいのか」といった苦しみの原因具体的にできません。

でも、混沌とした苦痛は重くのしかかり続けてしまいます

 

さらに、親に依存せざるを得ない状況のため、

事実をそのまま受け止めることは生きていけないことに直結します。

(これがときに「ストックホルム症候群」にもなります)

そのために、「記憶や意識を飛ばす」という原始的な防衛反応としての「解離」になると指摘されています。

 

また、成人期以降であっても、犯罪の被害のような極めて危機的な体験をしたときにも解離症状が認められることが多いです。

 

情緒的サポートの欠如

さまざまな解離症状の中で、「子どものころの一定時期の記憶がまるっとない」という場合、

幼少時代に「情緒的関わりの欠如」が認められることが多いといわれています。

端的にいえば「愛情の不足」にあたります。

「本来与えられるべき気持ちのサポートがない」ことが長く続くことによって、

子どもは「認識できない空虚さをかかえる」と考えられます。

 

「認識できない空虚さ」というのは、「精神的に必要なサポートがない」というときの心の痛みです。

 

大人でも「心に何か足りない」と気づくことは難しいです。

それでも、大人であれば子どもよりは「さびしい」「悲しい」「思いやりが欲しい」等と認識できるかもしれませんが、

子どもであると、精神機能はまだ未発達なためにわかりません。

でも、空虚で痛みます。

それをそのまま記憶することは生きていくことができなくなるほどのストレスだと判断され、

「夢うつつで過ごすようになり、記憶があいまい」であったり、「昔の記憶が全くない」といった状態になるのではないかと推察されます。

 

「解離」は楽しい記憶もなくしてしまう

「解離性健忘」により、幼少期の記憶が失われると、

成人後に振り返ったとき、「苦しい記憶がなくて良い」などという心境ではもちろんありません。

ご本人にとっては「取り返しのつかない喪失」として語られることが多いです。

「覚えていない」ことが、本人の気持ちの整理を妨げたり、「自分に裏切られた」と感じたり、

今の自分との連続性を感じられないなど、「以前のことを覚えていない」という事態は苦しみを生みます。

 

そして「解離性健忘」に限らず、「解離」という現象は、ツライことも封印しますが、

楽しかったことや嬉しかった記憶や感覚も一緒に封印してしまいます。

そして、解離症状が続いていると、現在の喜びの感覚まで、軽減させてしまいます。

 

「解離」は「自分を分断しないと生きていけない」ほどの体験の現れ

さまざまな症状の中でも「解離」は特に、「言葉では言い表せないほどのつらい体験」の現れであると思っています。

自分を分断しなければ生きていけないほどのことであったということです。

 

「それほどにツライ体験をしたのによく生き延びた」という言葉は、

不快にさせてしまったり傷つけてしまうことがありますので、臨床現場では滅多に言いません。

ただ、ブログでは他の関わりができないので、あえて書きたいなと思います。

 

 

自分を分断しなければいけないほどの環境下で、本当に言葉では言い表せないほどに、がんばった。

今もがんばっている。

 

 

覚えていたくて覚えているわけではないし、忘れたいから忘れたわけではないのですよね…。

でも、自分の意志が働くよりもかなり前の段階で「記憶に蓋をしよう」とすることが生存本能の判断であり、

「忘れないで警戒し続けなければ」というのも、意志とは別ではありますが、生存本能の身を守ろうという対処なのですね。

 

対処法

解離は、症状の中でも特に複雑でデリケートです。

なぜなら「記憶や感覚の一部を分断しなければ耐えられなかった」ほどの体験なので、

支援する側の人間は、「なんとかしよう」とする前に、

何よりもまずご本人にとっての「安全の確保」になれるよう努める必要があると自戒しています。

 

手当てはできるところからで大丈夫

解離が認められる場合、それ以外の症状も並存していることがほとんどです。

それは、うつ病などの気分障害であったり摂食障害であったり不安障害であったりと様々ですが、

「症状は解離だけ」というケースはまずないのではないかと思います。

なので、対処法を考えるときには解離に限定せずに、

まずは、「今、取り組めそうな課題から取り組んでいく」ことが大切であると思っています。

いきなり幼少期のトラウマに取り掛からずとも、

「今の苦しみ・今の不安を少し減らす」「今の安全を増やす」ことから始めていけるといいと思います。

 

軽い解離への対処

「記憶がない」「自分が自分でない感じ」というような比較的重い解離には、

さきほどのように時間をかけて丁寧にみていく必要があります。

 

一方、「手足の感覚がしなくなった」「ちょっと気が遠くなってきた」というような比較的軽い解離が一時起きたときにできる対処は、

「今は大丈夫」と認識することです。そのために「体の感覚に気を向ける」ことが有効になります。

 

ポイント

「軽い解離」が起きたときは「今の体の感覚に注意を向ける」

具体的には、

・「手に力をこめてグーパーする」

・「目に見える光景に意識を向け、何が見えるか口に出していく」

・「足をどんどんさせて地についていると実感する」

などがその場でできる対処になります。

 

大人になった今だから

大人になり、子どもではなくなった今だからできることや、

大人になってから苦しみや不安が強くなるなど症状が顕在化することがあります。

 

そのような時間の経過で起きる変化の中で、解離も、全ての記憶や感覚が戻ってこなかったとしても、

ゆっくりと軽減していけることがあります。

楽しかった記憶が思い出されたり、

今の嬉しさや安心する気持ちなどを実感できるようになることができていっていることもあります。

 

また、今回取り上げたような「幼少期の記憶がない」ことを振り返ったとき、

「さびしかったんだ…」等と当時の自分を癒すことができると、楽しかった記憶も思い出せるようになることがあります。

 

なによりも、ずっと放っておかれてしまっていたかつての自分を、

大人になった今だから助けにいってあげることは、トラウマ治療の根幹だとも思います。

 

特定の対処法でなくても良い

トラウマケアは、いろいろなアプローチ法があります。

トラウマケアに関する治療法は日々進歩しています。

専門的な治療は有効ですし、カウンセリングなど受けられたらとても良いと思います。

 

でも、わかっていても受けることができないことは多いですよね。

皆が専門的な治療や自分に合ったカウンセリングを受けられるわけではないと思いますし、

全員に必ず有効な治療法はありません。

だから、仮に専門的な治療を受けられなかったとしても、「良くならない」ということでは決してありません。

 

また、心と同じように体のケアから癒されることもたくさんあるかと思います。

必ずしもトラウマに特化した治療でなくても、

心を気遣ったり、体をマッサージでほぐしたり、

好きな食べ物や音楽と共に時を過ごしたり、ご自分に合った方法で無理なく労わり続けられたらいいなと思っています。

 

 

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この記事でも繰り返したように、本当に「解離」というのは難解で、症状や程度が多岐に渡ります。

なので、今回は「幼少期の記憶がない」にちょっとフォーカスしましたが、

また「解離」の一部分を取り出して記事にしたいなと思います。

 

次回は、宣言したままアップできていない「ある性被害サバイバーの話28」の続きをアップしました!

こちら→「ある性被害サバイバーの話29」

 

後日、「成功恐怖」という心理も、実は奥が深いので、ぜひご紹介したいと思っています。

 

今回はちょっと分かりにくかったかもしれないのに、最後までお読みくださってありがとうございました!

 

またお越しいただけるのを心待ちにしております♪

 

 

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