今回は、『防衛機制』という精神分析で概念化されている無意識の心の作用について取り上げたいと思います。
「無意識」は、目に見えません。
けれども、その人の人生に無意識は実に多くの影響を与えています。
「再演」や「ストックホルム症候群」、「躁的防衛」なども無意識の作用です。
私たちが意志で選択できるのは「意識」に上がった事柄です。
かつ、「自己理解」や「他者理解」も思考によって可能になります。
「無意識」のままですと、理解や気付きが妨げられてしまうことがあります。
そのため、無意識を知り、意識化することは心の健康のみならず人生においてとても有意義なことだと思います。
そんな無意識の作用を知る際に有用なのが「防衛機制」です。
ご存知の方も多いかと思いますが、精神分析はフロイトによって提唱されました。
フロイトは、「無意識の存在」を初めて主張したことで有名です。
精神分析を広めたフロイトが「無意識の心的反応」として「防衛機制」という概念を提唱しました。
防衛機制とは?
「防衛機制」とは、自分の感情や欲求が認めがたいときに、
不安や自責感といった辛い感情を感じないで済むように自分を守るために働く様々な無意識の方略をいいます。
フロイトが概念化しましたが、その後、フロイトの娘アンナによって深められ体系化されました。
「防衛機制」は、人の無意識の言動を意識化して理解するために、とても有益な概念です。
自分に対しても、親などの他者に対しても、「どうしてこういう行動をするんだろう?」という疑問を解く手がかりになります。
防衛機制の種類
「防衛機制」はほとんどの場合、適応的な対処であるといわれています。
ただ、場合によっては自分や他者を苦しめる行為に繋がってしまうこともあります。
防衛機制は、いくつか種類があります。代表的なものを表にまとめました。
◆代表的な防衛機制
抑圧 | ショックな出来事や不快な感情を単純に抑え込んでしまうこと
例)ショックな出来事をそのまま忘れる。 |
否認(否定) | 現実の出来事を、現実として受け入れないこと
例)癌であると宣告されたが、間違いであるとし認めない。 |
投影(投射) | 自分のある種の感情や衝動、考えが、自分の中にあると認めず、それを他者に投げかけること
例)後ろめたい気持ちを「みんながジロジロ見ている」と思う。 |
反動形成 | 受け入れがたい感情や衝動を抑圧するために、それと反対の感情や衝動を示すこと
例)差別意識が強い人が「差別反対運動」をする。 |
知性化 | 感情を本当に感じることを避けるため、浅い知的レベルで理解しようとすること
例)自分の深い心の傷に直面することを避けるために、心理学を学んで理屈で理解しようとする。 |
合理化 | 行動の真の理由を隠すために、もっともらしい理由を作ること
例)イソップ童話の「取れなかったブドウは美味しくなかったのだ」が有名。 |
昇華 | 欲求を、社会的に望ましい活動へのエネルギーに向けること
例)性衝動を部活動に熱中することで発散する。 |
同一化 | 叶わない願望や自分にないものを、それを持つ他者になったかのように感じることで空虚感を埋めようとすること
例)子どもを持たない人が他人の子の服を作ってあげる。 |
この中で「投影」と「反動形成」を抜粋して掘り下げたいと思います。
投影
「投影」とは、「自分の中で認めがたい気持ちを他人が抱いていると転嫁する心理作用」をいいます。
例えば、「Aさんのことが嫌い」と本心では思っている。
でもその人は「人を嫌ってはいけない」というとても強い価値観があった場合、
「人を嫌っている自分」を無意識で自分ではない人に移し、
「Aさんは私を嫌っている」と意識化することを「投影」といいます。
他には「パートナーの浮気を疑う人は自分が浮気をしたいからだ」というのも、この「投影」にあたります。
「投影」はまさに無意識で人の心によく起きています。
例えば、「会社の人たちは自分を信頼していない」と思っていたら、
それはもしかしたら自分が「会社の人を信用していない」のかもしれません。
「防衛機制」は無意識です。
自分では知らないうちに行われている心的作用です。なので悪いことだとか直すべきとかそういうことではありません。
ただ、誰かに抱いている負の気持ちに苦しくなることがあったら、
自分はその人をどう思っているだろうと自分に聞いてみて欲しいなと思います。
そうしたら本心に気付くことができ、対策も変わってくることがあるのではないかと思います。
反動形成
もう1つ、興味深い防衛機制が「反動形成」です。
「反動形成」とは、自分が抱いた感情が認めがたい場合、それと反対の言動をすることを言います。
例えば、「本当はすごく嫌いな相手に、好意的に接する」などが代表例です。
「反動形成」を取り上げたのは、「本心とは正反対の言動」であるために、
本人も周りの人もミスリードされてしまうことが多いからです。
無意識ですから本人も気付きません。
しかし、本心とは真逆の行為を続ければ、長期的にはかなりのストレスになり、場合によっては他者も巻き込み混乱を招いてしまいます。
「反動形成」は、親が子どもにまさに無自覚にしていることが珍しくなく、
子ども側は親の矛盾する言動に苦しんでいることが多々あります。
ここで、親側が子どもに向ける言動の中で、実は反動形成が疑われる例をあげます。
親から子への「反動形成」例
・子どもに見捨てられるのが怖い親が、やたらと子どもに「結婚しろ」という
・本当は自分の役割を取られたくない母が娘に「家事を手伝え」と促す
・本当は働きたくない気持ちが強い親が、「働くことは素晴らしい」と教え続ける
「反動形成」は親子関係以外でももちろん作用します。
ただ、親が「反動形成」という無意識の言動を子どもに行うことは、とても多く、その上、子ども側を混乱させてしまう行為です。
なので、子ども側の方々の心の整理や理解の助けになればと思っています。
上の例のように、「本当は自分のところから去ってほしくない」という気持ちが極めて強いのに、
それを認められないために「早く結婚しなさい!」「いつまでも実家住まいだなんてみっともない」などと子どもをせっつくケースが少なくありません。
問題は、子ども側が実際に家を出ようとすると、本心は家を出て欲しくない親が邪魔をするという点です。
同様に、家事という役割を娘に取られたくない母親が、家事を手伝うように娘に促すという「反動形成」の場合、
娘が言われたように行っても、親はダメ出しばかりし、娘1人に任せようとはしません。
厄介なのは、その親は、自分の本心に気付いていません。
だからまるで本心からかのように結婚や独立を子どもに催促します。
そして子どもが言われたとおりに親元から出ようとすると、
「相手がダメだ」「あんたにはまだ一人暮らしはできない」などといい邪魔をするのです。
このときも親側は本心に気付かぬまま、真逆のことをしていることが多いです。
なので、話し合っても、「親は子どもの独立を心から願っているけれど、子どもが未熟だから許可できない」という論調になる傾向があります。
こういうやり取りを繰り返されてしまうと、子ども側は疲弊してしまいます。
そして本当に「自分は親から独立できないのだ」と思ってしまいます。
でももしかしたら、親の無意識のコントロールかもしれません。
無意識の意識化の重要性
防衛機制は、ほとんどの場合で「適応するために有効な対処」とされています。
なので、決して直さなくてはいけないことではありません。
ただ、行き過ぎてしまうと返って苦しみを増やしてしまうこともあります。
どちらにしても、やはり気付いていることはそれだけで助けになります。
私は「無意識の意識化」を非常に重要なことと捉えています。
『再演』や『ストックホルム症候群』などの記事でも強調しているように、
無意識は目に見えないです。でも、無意識は存在しています。
「どういう考え方ならいいのか」「どんな行動ならいいのか」などは人それぞれです。
大事なことは「選択できること」だと思っています。
自分のために自分自身の意志で自分の人生を選択するためには、
無意識の意識化がとても重要になると思っています。
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他にも無意識の防衛はいろいろあり、
代表的なものの1つである「躁的防衛」について「ある性被害サバイバーの話⑦」で解説しています。
「躁的防衛」もとてもよく見受けられる心的反応なので、ご興味があればぜひ!
「防衛機制②」の記事では、「怒り」に対する無意識の作用を取り上げています。
次回は、「成功恐怖」についてご紹介しています!
ちなみに、「成功恐怖」も無意識の範囲といえるかと思います。
またのお越しをお待ちしております!
最後までお読みくださってありがとうございましたm(__)m