今回は「統合失調症」という病気を理解していきたいと思います。
以前は「精神分裂病」という名称だったこともあり、「統合失調症」は偏見や誤解が多い病です。
統合失調症は、100人に1人が発症するといわれています。
なので決して珍しい病気ではありません。
そこで今回は、統合失調症の症状を整理しながら、普段はどのような苦しみを抱えているのか、
実際にイメージできるようにしていきたいと思います。
目次
統合失調症とは
統合失調症とは、考えや気持ちが自分のものとしてまとめられなくなる精神疾患です。
未治療期間が短いほど予後が良いことが証明されていますので、早期発見が極めて重要になります。
統合失調症であると治療に繋がるまで本人には病識がないことも症状の1つのため、
周囲の人が気付いてあげることも大切になります。
中核となる症状は「陽性症状」「陰性症状」「認知機能障害」の大きく3つに分けられます。
陽性症状
陽性症状の代表的なものは『妄想』と、「幻聴」や「幻視」などの『幻覚』です。
「他人が自分を攻撃する計画を立てている」というような『妄想』や、
「お前が悪い」というような不快な「幻聴」、居るはずのない人が見えるといった「幻視」、
「体の中を虫が這っている」と感じるような「体感幻覚」などの『幻覚』が代表的な症状となります。
他にも「車のナンバープレートが文字に見える」「ニュースの内容が自分のことを言っている」などの『関係念慮』や
「誰かに監視されている」というような『被注察感』など、
本人を苦しめる幻はさまざまな形で襲ってきます。
いずれの場合も、本人に対して否定的で被害的な内容であることがほとんどです。
そしてそれらは本人には「現実」と認知されてしまうため、とても恐ろしく混乱してしまいます。
陰性症状
陰性症状は、感情が平坦になり、意欲が著しく低下し、場合によっては引きこもることもあります。
あまり動くこともなくなってしまうこともあります。
思考もあまり働かず、会話がうまくできなくなることもあります。
認知機能障害
統合失調症は、意欲低下や感情の平坦さと同時に、認知機能障害が認められます。
「認知機能障害」とは、注意力や思考力が低下する状態です。
記憶に留めたり、注意を適切に配分したり、計画を立てたり判断したりといったことが難しくなります。
普通の人が意識せずに行っている記憶や注意ができなくなることで、社会生活に支障がでます。
うつ病との違い
統合失調症の陰性症状と認知機能障害は、うつ病の症状と似ています。
うつ病との違いは、統合失調症の場合は、感情よりも思考の障害である点です。
うつ病でも「思考力の低下」が認められますが、
うつ病ではそれと同じかそれ以上に「気持ちの落ちこみ」が顕著です。
統合失調症の陰性症状は、「気持ちの落ち込み」というよりも、
「思考や感情の静止」とイメージしたほうが近いかもしれません。
なぜ統合失調症になるのか
統合失調症は、脳内のドーパミンという神経伝達物質が過剰に分泌されることによって発症するとされています。
しかし、なぜ神経伝達物質のアンバランスが起きるのかはまだ明らかにされていません。
ただ、「強いストレス」は発症の一因だとされています。
発症年齢と経過
統合失調症の発症年齢は、10代後半から30代半ば頃までとされています。
統合失調症は、発症年齢によって予後が変わります。
若くして発症したケースほど重く、遅く発症したケースほど比較的予後が良いです。
若くして発症するケースでは、虐待が原因として論じられることが多々あります。
比較的遅く発症したケースで見受けられるのは「残業がかなり多いなど、過労状態が長期間続いていた」パターンや
「社内で無視をされるなどのいじめ被害に遭っていた」といったような
「長期的に劣悪な環境下にいた」という共通点が認められることが私の臨床経験上は多いです。
しかしながら、現段階での精神医学では明確な因果関係は不明です。
発症が遅いほうがその後の回復が見込めますが、
発症前の自分と比較してしまったり、偏見など将来を考えられてしまうことで、
精神的な苦痛を強く感じてしまうという側面があります。
発症過程
統合失調症は一般に、前兆があって急性期で陽性症状が顕著になって入院などの受診に繋がるケースが多いです。
前兆は、「強い不安感や不眠、落ち着きのなさ」などです。
その後、「妄想」や「幻覚」が現れ、本人はそれらの症状を現実だと認識するため、
周囲の人が気付いて受診にいたることが多いです。
急性期は、入院するなどして、きちんと治療を行えば症状は落ち着きます。
同時に、病気に対する心理教育がとても重要になります。
治療法
統合失調症は、「服薬が命!」といっていいほど、適切な服薬が治療の肝になります。
発症後からずっと服薬を続けることが必要になります。
長期にわたる服薬が必要となるため、薬を飲み続ける必要性に関して、医師や心理士、ご家族としっかりとした心理教育とサポートが必要になります。
統合失調症は、再発するとまた苦しい思いをしてしまいますし、状態も悪くなってしまいます。
症状が落ち着いている状態を「寛解(かんかい)」と言いますが、
「寛解」していると、薬の副作用の不快感もあり、「もう大丈夫かな」と思ってしまって服薬を止めてしまうことがありますが、
安定した良い状態を維持するためには服薬の継続が極めて重要です。
寛解後の臨床像
ここからは、統合失調症を抱えながらもきちんと服薬し、
日常生活を普通に送っている「寛解後の臨床像」をイメージして理解に繋げたいと思います。
体力がない
統合失調症は、「陽性症状」のイメージの強さから、
「攻撃的で活動的」と誤解されていることがありますが、実際は全く逆のことが多いです。
統合失調症の場合、基本的に平均よりも体力がありません。
そのため、雰囲気は静かで穏やかで、疲れやすいです。
なので、あまり無理をさせないようにハードスケジュールは避けたほうがいいかと思います。
ディケアなど、ハードではないけれど規則正しい生活が送れる環境を持てるといいと思います。
水分摂取の制限
統合失調症の場合、全員ではありませんが、
抗精神病薬の副作用や症状によって水分を取りすぎてしまうことがあるため、
水中毒防止のため1日の水分の摂取量をいちいち計って飲んでいる場合があります。
想像すると、けっこう面倒ですし、ストレスですよね。
健康な人は自由にがぶがぶ飲めますが、そうできない不自由さを抱えています。
症状はゼロにならない
「双極性障害Ⅰ型」の記事で「適切な治療を行っていても精神症状はゼロにならない」と書きましたが、統合失調症も同じです。
統合失調症の場合、幻覚の中でも「幻聴」は少し残ることが多いです。
ただ、服薬による程度の軽減と、心理教育によって「聞こえてくる声は幻聴だ」とご本人が分かるようになっている状態が寛解といえます。
この「幻聴」への対策として、音楽を聴くことで幻聴が起きないようにされている方が多いです。
「人を傷つけるかもしれない」という恐怖
統合失調症の急性期は、「病識がない」と書きましたが、その後治療を受ける中で症状であると理解します。
そして、急性期のときの「妄想」や「幻覚」を、全てではないけれど、覚えていることが多いです。
そのため、当時の自分を思い返し、
「またあんな症状に襲われたらどうしよう。人を傷つけてしまうのではないか」という加害恐怖を持ち続けなくてはならなくなることがあります。
そういうときは、ぜひ主治医や心理士に話して欲しいです。
服薬をきちんとしていれば大丈夫だということを何度でも遠慮なく確認して、少しでも安心できたらと思います。
周囲の対応
統合失調症は、最初に書いたように、
「未治療期間が長いほど予後が悪い。発症後、早期に治療できれば予後が良い」ことが明らかになっています。
早めの受診を
発症後からの未治療期間をできるだけ短くすることが重要です。
そのため、何よりも早期受診が極めて重要になります。
診断は医師が行いますので、詳しく分からなくて構いません。
気になることが自分や家族や同僚などに見受けられたら、病院の受診を勧めるなど、治療に繋がれればと思います。
陽性症状への対応
ある程度落ち着いた状態になっても、ときどき「妄想」や「幻覚」が起きることがあります。
その場合、聞いた人は「否定せず、でも話を掘り下げない」ことが大切です。
妄想や幻覚は、現実ではありません。
現実ではないことを掘り下げてしまうと、症状が悪化してしまうことがあります。
ただ、ご本人はウソを言っているわけではありませんし、
場合によっては「幻聴だ」と言葉にすることで「症状である」と意識する対策であることもあります。
なので、否定はしない。
否定せずに、「そうなんだ」と受け取りながら、現実の話に戻せるといいかと思います。
「そうなんだ。聞こえるのは嫌だね。でも幻聴だね。ところで今日の夕飯は何食べたい?」
みたいな。「どんな幻聴が聞こえるの?」等と聞き手側から掘り下げることは控えましょう。
ただ、ここは個々それぞれの病態水準によって、掘り下げないまでも、
ある程度聞いても大丈夫なことも多いかなと経験では感じています。
忘れないでいたいポイントは、ご本人は「幻覚」だろうと症状は苦しいのであり、それを誰かに聞いて欲しいときがあります。
「幻覚」「妄想」は掘り下げてはいけません。
でも、ご本人から話してくる分には聞きながら、
「それは症状でつらい」と確認することも現実への引き戻しになり得ます。
そして、好きな音楽や今日の予定などの実生活の話は、疲れない程度にいくらでも掘り下げて大丈夫です。
偏見
統合失調症という病気は、精神疾患の中でも理解が広がっていない病気の1つだと思います。
「正しい知識が広がらない」ことは、偏見を生んでしまいますよね。
それを一番感じているのは当然ながら誰よりもその病気を持った方々だと日々痛感しています。
「良くなった」と思えない
適切な治療を継続できれば、症状が以前より軽くなり「良くなった」といえる状態になります。
けれど、多くの統合失調症の人たちが「医者や心理士に“良くなったね”と言われるけど、自分では良くなったと思わない」と話されます。
別々で話を聞いているのに、口をそろえて「良くなったとは思えない」と寛解状態の方が言うのです。
「どうして良くなったと思えないのですか?」と聞くと
「統合失調症という病名は取れないから。社会的偏見からは逃れられない」と。。
こういった気持ちを抱えていることを、世の中の人が知ることは大事なことだと思います。
「精神疾患」を事件に持ち出す罪
「偏見」は、される側に非常に重くのしかかっています。
何かの事件が起きると「犯人は発達障害だった」「統合失調症だった」などと騒ぎ立てられます。
そのたびに同じ病気を抱える患者さんたちは「自分もそうなってしまうのだろうか」と我がことのように自分を省みたり、
「また偏見の目でみられる」と悲しみや悔しさややるせなさを抱えます。
一方で、なんの病気も抱えずにニュースを見ている人は「他人事」として考えています。
しかし、真実は、
健常者のほうが犯罪率は高いのです。
何かの事件の犯人に対して、「○○障害だ」と精神疾患からとってきて騒ぐことは偏見であり、
「自分たちは違う」という優越感に浸りたいだけの卑劣な言動です。
社会的サポートの必要性
統合失調症は、ご本人のエネルギーの少なさや継続的な服薬の必要性などから、
社会的なサポートがより必要であると思います。
統合失調症に限らず精神疾患は、今回の記事のように分かりやすいケースばかりではありません。
実際は、うつ病なのか双極性障害なのか不安障害なのか統合失調症なのか、
極めて判断が難しいケースも稀ではありません。
ただ1つ言えることは、精神病圏が疑われる場合、適切な投薬が行われないと、
ご本人は混乱状態が続き、自分が自分でなくなってしまうようで、極めて苦しい状態で放置されてしまうということです。
少しでも周囲の人が知っていてくれれば通院もしやすいでしょうし、病院と繋がれば福祉サービスとも繋がれます。
どうか、ご本人やご家族が孤立することのないように、
そして偏見が少しでもなくなっていくように、私たちもがんばっていきたいと思っています。
↓押してくださると寝子が自分の中の隠れた偏見はないか自らを省みます!!
いつも勇気と励ましをありがとうございます!!
1ぽち1ぽちに「感激です!!」と泣いています!!
今回は、「統合失調症」を取り上げました。
私自身も自らの偏見や誤解について気をつけながら、
これからも当事者の人たちが抱えている苦悩や精神疾患の正しい知識をお伝えしていきたいと思っています。
最後までお付き合いくださって本当にありがとうございましたm(__)m
またぜひ覗きにきてください♪