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病気のお話

【不安障害①】「不安」という怪物 ~理解編~

2021年6月5日

 

今回は『不安障害』について整理していこうと思います。

 

『不安障害』は一般に「治る病気」とされていますが、

程度の差がすごく大きい病であると、これまでの臨床経験から考えています。

例えば「卒論」や「大きな仕事」を抱えたことをきっかけに発症したけれど、

それが終わるor対処が功を奏して比較的早く治るケースもあれば、

摂食障害やうつ病を併発し、長期に渡るケースもあります。

 

そのため、この記事では、「不安障害の特徴と背景要因」について1回目で整理し、

次回に「対処法」についてまとめるという2回に分けて『不安障害』の概観を整理できればと思います。

 

不安障害には、全般性不安障害社交不安症パニック障害など、いくつか種類があります。

今回は、不安障害全般に共通する特徴を取り上げて全体像を理解したいと思います。

 

「不安」という感情

まず、「不安」という感情は、誰もが感じる感情です。

かつ、「危険を察知して回避する」ための重要な感情であります。

「危機に備えて回避する」という役割だからこそ、

「なんとかしないと」と思わせる強烈さが伴います。

 

ポジティブな変化の知らせであることも

「不安」は、「危機に備えるため」ですが、「危機」の中には、

「不慣れな状態への移行」も含まれます。

『不安障害』となっていると別になりますが、

「不安」自体は、「良い変化の知らせ」であることもあります。

例えば、「やってみたいと思っていたけど、初めて実際にやることになった」というとき、

嬉しい気持ちだけでなく、不安も伴いますよね。

場合によっては「楽しみ」よりも「不安」の気持ちの方がはるかに強く感じることもあると思います。

この点は次回の「対処編」で詳しく述べる予定です。

 

「不安」は行動をコントロールする威力がある

さきほど述べたように「不安」は全てがネガティブなものではありません。

ただ、どの場合でも、「不安」は人の行動を牛耳る威力があります。

 

そもそもは「危機回避」のためですから当然なのですが、

本来は安全であるときに感じたり、いつも不安感を抱えていたり、

現実的な危機はなくても強烈な不安や恐怖心に襲われてしまうと、生活に支障をきたしてしまいます。

そういった場合に『不安障害』となりえます。

 

不安障害とは?

『不安障害』とは、「不安を主症状とする精神疾患の総称」で、

先ほど述べたように、具体的な診断名としてはいくつかあります。

 

いずれの場合も、「予期不安」「回避行動」が中核的症状となります。

『パニック障害』は、「予期不安」と「回避行動」に「パニック発作」が加わります。

 

予期不安

予期不安とは「不安を強く感じさせた場面や場所などに対して

“また不安になったらどうしよう”と不安になること」をいいます。

 

予期不安は、特にパニック障害に強くなる傾向があります。

後述する「パニック発作」は「死ぬかもしれないほどの発作」になるので、

「また発作が起きたらどうしよう」という不安感が強くなります。

 

パニック発作でなくても、

「会社で電話に出るのが苦手で、手が震えてしまった。また震えてしまったらどうしよう」というケースや、

「人が大勢いるところに行くと動悸が起きて不安が強くなってしまう。またなったらどうしよう」といような、

さまざまなパターンが予期不安にはあります。

 

回避行動

回避行動とは、予期不安のために「不安が強くなりそうな場所や事柄を避ける」ことをいいます。

これは、「パニック発作が怖くて電車に乗れない」という症状を聞いたことがある人も多いと思いますが、

このように行動が制限されてしまいます。

 

回避行動は、「避けられてラッキー」ではありません。

さきほどの例であれば、「電車に乗れない」ことがどれほど日々の生活を制限してしまうかわかりますよね。

 

電車でなくても、「不安が強くなったらどうしようという予期不安の恐怖から、回避する」ということは、

ご本人にとって「不安はそのまま」であり、

「解決できない。逃げてばかり」等という心境になり、

より不安になってしまうことが多いです。

 

パニック発作

パニック発作とは、「強い不安感と共に、激しい動悸、発汗、胸苦しさ、息苦しさ、めまい、手足の振るえなどの複数の症状が同時に襲ってくる発作」です。

 

いつ襲ってくるかは分からず

ご本人には「死ぬかもしれないと思うほどの苦しさ」のため、予期不安と回避行動が強まるといわれています。

 

発作の持続時間

パニック発作は「10分以内におさまる」と医学的にはなっています。

だだし、実際には「死ぬかもしれないほどの発作」は10分程度でおさまったとしても、

動悸などの症状の全てが10分以内で消えてくれるわけではありません。

加えて、強い不安感はその後も数時間、場合によってはその日中続き、

仕事などを早退しなければいけないほど影響します。

 

怪物のような恐怖

不安障害の特徴は、一般の人が体験している「不安」をはるかに超えたとてつもない不安感に突如襲われる点です。

また、猛烈な不安は突然襲ってきますが、そうでないときに平静でいられるというわけでもなく、

慢性的にいつも不安感を抱えてほっとできる時がありません。

 

一人になるのが怖い

言い表せないほどの得体の知れない不安や恐怖がいつ来るかわからないので、

1人になることがとても怖いです。

家に居るときも病院に来るときも、家族など自分以外の誰かの付き添いが必要になることが珍しくありません。

 

ご本人にとっては「不安は自分ではコントロールできない怪物」のようで、

1人だととてつもなく心細く、さらに不安になってしまうことがあります。

 

なぜ不安障害になるのか

始めに述べましたが、病院臨床をしていて、不安障害は特に、程度の差が激しい病気の1つだと感じています。

また、背景要因も多岐に渡ります。

ここでは背景要因として考えられる一部を取り上げます。

 

性格傾向

完璧主義であったり、もともと真面目で「ちゃんとやらないといけない」という気持ちが強いと、

同時に「うまくいかなかったらどうしよう…」と不安も強くなる傾向にあります。

 

また感受性の強さなどの「敏感さ」があると、

刺激に反応しやすいという点で「不安」になりやすいといわれています。

 

また、「失敗したときに怒られた。笑われた」というような過去の経験から、

似たような場面に対する苦手意識が強まってしまい、

結果としてそのような場面で強い不安感に襲われるというケースも多いです。

 

トラウマが原因であることも

不安障害が深いレベルのものに、生育歴に起因するトラウマ反応であることがあります。

幼少期に起因するトラウマが原因の不安障害であると、

うつ病や摂食障害など他の精神疾患を併発することもあり、事態は深刻です。

 

ポイント

「トラウマ」というと「PTSD」という印象ですが、

PTSDだけがトラウマが原因で発症する病気ではありません。

トラウマは、うつ病だったり摂食障害だったり不安障害だったりと、

PTSD以外の発症もたくさんあります。

 

このようなケースでは、「小さい頃からずっと緊張していた」ということが多いです。

このような「不安感」の原因には「基本的信頼感の欠如」があることも珍しくありません。

 

基本的信頼感とは

基本的信頼感とは、この世に対する基本的な信頼感です。

これは、「人は助けてくれる」等の他者に対する信頼に留まらず、

「歩いているときに突然道路は陥没しない」とか「家に居るときに天井は落ちてこない」といったような

普段は意識に上らない世界観も含まれます。

私たちは、日ごろ、「隕石が飛んできたらどうしよう」等とは意識しないで済むから健康で生きられるという側面があります。

それが逆に、無意識レベルで「突然床が落ちたらどうしよう」というような不安感を世界観として抱いているとしたら、

どれほどに苦しいでしょうか。

不安障害に苦しむ人の中には、このような根の深い心の傷を抱えていることが少なくありません。

「トラウマ体験によって失われることがある基本的信頼感」については

「ある性被害サバイバーの話22」で説明しています。

 

また、幼少期の生育環境やトラウマが原因だと推測でき、

なおかつ症状はPTSDではなく不安障害と判断される場合、

身体的暴力ではなく心理的虐待であった傾向があるように思います。

あるいは心理的虐待とまでいえないけれど、

「親がほとんど関心を示してくれなかった」

「衣食住は与えてくれていたけど、精神的にネグレクトのような感じだった」という場合です。

 

これは、先ほどの「基本的信頼感」にも通じるのですが、

子どもの頃は、世の中の仕組みや心身のことなどが分からないために、「不安が強い」のが通常です。

その上、無力なため、余計に漠然とした不安感を抱きやすいです。

そしてそれを「大丈夫だよ」と教えるのが大人の役目です。

 

その関わりがないと、何もかも不安なままですよね。

もちろん、「親がいつ半狂乱になるかわからない」という場合も怖くて仕方がありません。

そう考えると、生きぬくために警戒し続けるようになったとしたら、

どれほど頑張ってきたのだろうと想像を絶します。

 

前向きな意志が強い傾向

少し話のトーンが変わります。

 

「不安」というと「良くない感情」のように思いますし、

『不安障害』となりますと余計に「心配性すぎるんだ」等とネガティブに捉えがちかなと思います。

 

けれども単に「心配性」等ということだけではないリソースがあると私は感じています。

 

不安障害の方々の生育歴や性格傾向がどうあれ、私の個人的な臨床経験では、

不安障害の方は「明るく意欲的に生きていきたい」という気持ちが強いことが多い気がしています。

 

もしかしたら「本当はこうしたい」という気持ちがあって、そうしようという意志もあるから、

同時に「不安」という先々に対しての感情が強くなってしまうのかもしれないなと考えたりしています。

 

そして「自分なりに生きていきたい」という前向きさがあるからこそ、

「不安」によって邪魔されてしまう状態にある自分が許せなくて、

苦しい気持ちが強くなることがあるのではないかと思います。

 

もちろん全てのケースがそうであるわけではありませんし、無理に明るく前向きにすることはありません。

 

ただ、もし、「自分なりに明るく前向きに生きていきたい」「本当はやってみたいことや欲しい物がけっこうある」ということがあったら、

それは素晴らしいリソースです。

それが「不安」によって隠れてしまっているなら、見逃さずに大切にしていきたい希望です。

 

実は、『不安障害』を回復させるために必要になるのが、

この「自分らしく生きていきたいという欲」なのです。

 

 

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では、次の記事で今少し触れた「人間が持つ欲」に着目した、

『不安障害』の対処法として有効な「森田療法的アプローチ」をご紹介したいと思います。

 

続きはこちら→「不安障害:対処法編」

 

今回少し触れた「心理的なネグレクト状態」が原因と考えられるものに「解離性健忘」があります。

「子どものころの記憶がない」といった「解離症状」について

「子どもの頃の記憶がない~解離性健忘に焦点を当てて~」という記事もありますので、

ご興味があればぜひ。

 

お読みくださって本当にありがとうございましたm(__)m

 

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