今回は『強迫性障害』という病気を理解していきたいと思います。
強迫性障害は、「過剰な手洗い(洗浄強迫)」や「戸締りの確認(確認行為)」などで、
なんとなくイメージができる方も多いかと思います。
強迫性障害の症状と治療法を整理していきます。
目次
強迫性障害とは
強迫性障害とは、「強迫観念」と「強迫行為」が中核的症状となります。
強迫性障害は、DSMという診断基準マニュアルで、以前は「不安障害」に分類されていましたが、
最新版では単独になりました。
強迫性障害は、本人は「その思考や行動が不合理であると分かっているけど止められない」という病です。
不安や恐怖を喚起させる思考が襲ってきたら、なんとかしようと思いますよね。
しかし、なんとかしようと行動することは「強迫行動」であり、
かえって状態を悪化させてしまうという病気です。
強迫観念
強迫観念とは、「意図せずに頭の中に非合理な考えが浮かんで止まらない」ことを意味します。
浮かんでくる考えは「不安」や「恐怖」を喚起させる内容で、止めようとしても止まりません。
例えば、「鍵をかけ忘れたかもしれない。泥棒に入られたらどうしよう」
「細菌がついているかもしれない。このままだと全身が汚れてしまう(不潔恐怖)」
「さっきの信号で人を轢いてしまったかもしれない(加害恐怖)」など、
一度浮かぶとどんどん膨らみ、恐怖と不安で頭がいっぱいになってしまいます。
強迫行為
強迫行為は、強迫観念から逃れるために行われます。
「確認行為」や「儀式」と言われることもあります。
強迫観念によって不安と恐怖で頭が占められてしまいます。
それをすぐに払拭するには、強迫観念の訴えに従うことになってしまいます。
「鍵をかけ忘れたかもしれない」という強迫観念を鎮めるために、一度家に戻って施錠の確認をしたり、
「不潔恐怖」という強迫観念においては「洗浄強迫」という「手洗い行動」を繰り返したりします。
このように、強迫観念を鎮めるための強迫行為に1日の何時間も費やしてしまうこともあります。
そして、強迫行為によって一瞬は強迫観念がなりやんでも、
再び際限なく「強迫観念」が襲ってくるというのが強迫性障害の苦しみです。
悪化すると
強迫観念が悪化すると、妄想的になってしまうことがあります。
強迫観念はそもそもは「本人はおかしい考え方だと分かっている」状態です。
しかし、悪化すると、事実ではないのに、ご本人には事実として確信するようになってしまうことがあります。
そうなりますと、修正はかなり難しく、場合によっては家族や知人なども巻き込み、ご本人も混乱した内面を抱え続けることになります。
こういった場合は、根底に「強い不安感」が原因であることがあります。
妄想的になるほど強迫観念が悪化した場合は、強迫観念や強迫行動を改善する前に、
適切な服薬の検討も必要になることがあります。
強迫性障害は、ご本人はご自身のことを「考え過ぎ」「心配性」等と思い、医療機関の受診を控えてしまうことがありますが、
妄想的になるほど苦しくなることの予防のためにも、受診されることをお勧めします。
治療の中身はどうであれ、医師や心理士と言葉にして話すことで、自分の頭の中だけでグルグルすることを防ぎ、整理することに繋がります。
ご本人の不安感に寄り添って、その軽減に努めることが大事になることもあります。
なぜ強迫性障害になるのか
強迫性障害の原因は、特定されていません。
ただ、DSMの「不安障害」のカテゴリーから外れて独立したのは、「不安」ももちろんですが、
それ以上に「嫌悪感」や「道徳心」に基づいて発生していると考えられるようになったためです。
ということは、その人の持っている「こだわり」や「考え方」といった性格傾向がある程度関与すると推測します。
あるいは、何らかの「喪失」がきっかけになることもあります。
性格傾向
あくまで私の臨床経験になりますが、
強迫性障害の方は、比較的「真面目で権利よりも義務を果たすことを重んじる」傾向にあるように感じます。
そのため、行動基準は「適切か不適切か」というようなその人なりの善悪が基準になるように思います。
それが先ほどの「道徳心や嫌悪感」と関連すると思います。
場合によってはご本人のみならずご家族を巻き込むこともあります。
帰宅してすぐシャワーをあびるように強要するなど、強迫行動を他者に行わせようとすることもあります。
また「ジンクス」というように、縁起が悪いことを避けるために、
「おまじない」のように「儀式」と呼ばれる「強迫行為」を繰り返すケースは、不安が強い場合が多いです。
ただ、不安だけではなく「失敗したら終わりだ」というような「思考」が根底にあり、完ぺき主義傾向を持っている場合も珍しくありません。
二次障害として
強迫性障害は、ASDの特徴を傾向として持っている場合や、うつ状態などのときの二次障害として顕在化することがあります。
逆に、強迫性障害を一次障害として、うつ病などの気分障害を併発することも珍しくありません。
強迫性障害のメカニズム
強迫性障害の発症の原因は特定されていませんが、
治療法につながる「強迫性障害のメカニズム」は他の精神疾患に比べるとかなり明らかになっています。
強迫性障害の流れ
①強迫観念が浮かぶ
↓
②不安や恐怖でいっぱいになる
↓
③安心するために強迫行為を行う
↓
④一瞬落ち着く
↓
⑤ ①に戻る。
これを繰り返すことでどんどん悪化していくとされています。
よって、この悪循環を断ち切ることが治療の主軸になります。
対処法
強迫性障害は、「曝露反応妨害法」という行動療法が現在のベーシックな治療法になります。
私も強迫性障害の方には暴露反応妨害法を用います。
「曝露反応妨害法」を端的にいうと
「どんなに強迫観念に襲われても強迫行為を我慢する」という治療法です。
「強迫観念」は扱わないこともポイントの1つです。
あくまでも「強迫行為の制御」に集中します。
「強迫行為を行わない」ことが重要なのは、
「強迫行動を行わなくても不安感や恐怖心は消えていく」ということをトレーニングすることで、
症状に振り回されずに生活できるようにするためです。
ポイント
・強迫観念のいうことはきかない
・強迫観念は間違った思い込み
・強迫行為は行わない
・やるならせめて時間をおく
・どうしても確認するなら1回まで
強迫のいうことはきかない
強迫観念はそれこそ「手を洗わないと全身に菌がまわる」等のように
強烈に強迫行為を行うように迫ります。
しかし、1度強迫行為をすれば収まるかというとそうではありません。再び強迫観念は襲ってきます。
つまり、きりがないのです。
「強迫行為」をしても、一瞬落ち着くだけにすぎません。
かえって、「強迫行為をしたら落ち着く」と「強迫行為」を強化させてしまうところが強迫性障害の怖さです。
しかし、本当は、強迫行為をいくら行っても全く解放されません。
それどころか、生活の大半を強迫行為に使われてしまうこともあります。
だから「強迫観念のいうことはきかない」と決意することが大事になります。
メカニズムを理屈で理解する
強迫性障害の方の性格傾向に、「感情よりも思考優位」であることが多いと思います。
そのため、「~すべき」「~したらダメだ」という風に、
行動を善悪や理屈で判断する傾向があるように思います。
なので、治療においても、「強迫行為を繰り返すデメリット」「確認したくなってもしないことのメリット」をしっかり理屈で理解できると、
比較的スムーズに実行しようとできるように感じています。
先ほどのメカニズムに治療過程を加えると、
強迫性障害の行動療法
①強迫観念が浮かぶ
↓
②不安や恐怖でいっぱいになる
↓
③強迫行為を我慢する
↓
④強迫観念が強くなり、すごく怖く不安になる
↓
⑤それでも強迫行為を行わない
↓
⑥強迫観念が弱くなり、不安や恐怖が消えていく。
これは、「不安障害②~対処法編~」で述べたことと根本的なメカニズムは同じです。
「強迫行為はせずに、本来やるべきこと、やりたいことをやっていく」という繰り返しで、
「強迫行為をしないほうが強迫観念はなくなっていく」ことを体験します。
そして、強迫行為に支配されない生活を取り戻していきます。
回復過程でおきること
「強迫行為をしない」というのはとてもシンプルです。
けれど実際はそう簡単ではありません。
そのことや回復過程で起きることもあらかじめきちんとご本人に説明しておくと、
強迫行為をしてしまったときにも過剰に落ち込むことを避けられると思います。
他の症状として出る
「強迫行為」は、その人にとって「ストレス対処」や「日々の習慣」になっていることがあります。
それを止めようとすると、他の症状で出ることがあります。
それは落ち着きのなさや不安感といった精神症状もあれば、頭痛や腹痛などの身体化もあります。
そのようなときは、ご本人とよく話し合い、他の病気の可能性も検討しながらも、
「強迫行為は行わない」という態度は一貫して持つ必要があります。
その上で、「不安感の根本的な原因はなにか」「思考を少し緩めた方がいいかもしれない」等と、
支援の幅はその都度検討していきたいと思います。
また、曝露反応妨害法は、一般に項目を出して取り組むのですが、出した項目はクリアしても、
今までは全く気にならなかった別のことが気になり始めて、そちらに強迫行為を始めるということも多々あります。
なので、そのような方がいらっしゃったら「自分だけではない」ので、どうか落ち込まず…。
感情面
治療法から話がそれますが、強迫性障害の方は「感情よりも思考優位」と先ほど書きました。
確かに行動規範は理性などの思考に従う傾向があるように思います。
けれど、カウンセリングをすると、情緒的な交流がとてもスムーズにできる方が多いなと私個人は感じています。
もちろん、「理屈を理解する」ことはポイントになる気がします。
けれど、だからといって、感情は淡白かというと、そんなことはなく、さまざまな情緒的体験をされていると感じます。
なので、もしかしたら、感情を理性で抑えすぎなのかなと考えたりしています。
ここら辺の理解は、フロイトが役に立ちそうですね。
行動療法はしんどい
「強迫行動を我慢しましょう」というと、簡単なように聞こえますが、
ものすごく大変です!!
「不安障害②対処法編」の森田療法も同じで、「不安に従わずやりたいことをやりましょう」というにも、本当に
「言うはやすし行うは難し」
です。
強迫性障害も、そもそも強迫行為をしなくて済むくらいならしていないのです。
だから、行動療法をできないことがあっても落ち込むことはありません。
まずは不安感の軽減や認知療法、あるいは環境調整などを試みてもいいと思います。
アプローチ法は1つじゃないですから、医師や心理士などとご相談できるといいと思います。
できなかったら、「できない」と言っていいんですよ。大丈夫です。
それで責めるような医師や心理士だったら転院しましょう。
環境調整
強迫性障害の「確認行為」の場合、環境の整備が有効なことがあります。
根本的な改善とは異なるかもしれませんが、「外出先で家の施錠やエアコンのスイッチが確認できる」ようなアプリを入れたり、
「ガスの元栓が気になる」場合はIHに変えるなど、そもそもの環境を変えることで軽減できるなら環境を見直しましょう。
また、「施錠したら写メを取る」などは確認行為の軽減に有効な対処です。
「曝露反応妨害法」より遠隔的になるものの、その経験を積むことで
「強迫観念はウソなんだ」「強迫行為を行わずに済んだ」と思える体験になると思います。
大事なことは、少しでも「強迫行為はしなくて大丈夫」という経験を積むことです。
また、強迫観念や強迫行為は、何かのストレスの表れかもしれません。
喪失体験
今回の記事では典型的なケースに言及しています。
ここで触れていないケースを少しあげると、
「溜め込み症」などの強迫性障害の場合、なんらかの「喪失体験」や「心的外傷体験」が発症のきっかけになっていることがあります。
その場合は、行動療法よりもグリーフワークや、場合によってはトラウマケアが必要になることもあります。
ご本人の発症にどのような要因が関わっているのか、適切にアセスメントすることが大事になります。
いずれにしても右肩上がりに良くなるものではありませんので、
「せっかく止められていたのにまた強迫行為が酷くなってしまった…」としても、それは回復過程で自然なことです。
それで今までの苦労が無駄になったわけでは決してありません。
まず、今のご自身のストレスを見直してみて癒しながら、また取り組んでいければと思います。
そして、「今はできない」からといって、ずっと「できない」とは限りません。
これまた私の臨床経験になりますが、認知行動療法が極めて有効に働くのは、「カウンセリングを開始して半年後以降」であるケースが多々あります。
「始めの半年間なにしてるの?」というと「感情の消化と状況の整理」です。
もちろん最初から導入できることもありますし、そもそも認知行動療法を実施しなくても良い、あるいは合わないというケースもあります。
ただ、必要であれば、その下地造りを行う期間は決して無駄ではないし、変わっていけるものだと実感しています。
↓押してくださると寝子が「強迫行為」を我慢できます!!
玄関の鍵を閉め忘れたってなんてことないぜ!!
いつも貴重な一押しを本当にありがとうございます!!
みなさまの一押し一押しに支えられて生きています!!
本当です!!!
今回は、「強迫性障害」を整理しました。
さまざまな病気に対する有効な治療法は日進月歩で進んでいきます。
昔は「有効」とされた支援法も、後に「禁止」となることもあります。
けれど、今回ご紹介した「強迫性障害」の行動療法は、おそらく今後も有効な治療法として証明され続けるのではないかなと思います。
「強迫行為は行わない」ことは、大事なポイントだと思って間違いないかと思います。
ただ、必ずしも、強迫行為にストレートにアプローチする方法だけが回復する唯一の方法というわけではありません。
できれば素晴らしいし、できなくても他の方法はありますから、
その時その時でご自分に合った取り組み方を見つけられるといいなと思います。
今日も最後までお読みくださってありがとうございましたm(__)m
またのお越しをお待ちしています!