今回は
「泣くから悲しくなるんだ。苦しいときこそ笑っていよう」
というフレーズに代表される
「身体反応によって心的反応が決まる」と考える学説などを挙げながら
「感情と身体反応や行動との関係」について、
軽くご紹介したいと思います!
目次
情動の起源
「感情はどのように生じるのか」というのは、心理学に留まらず人体の大きな謎の1つです。
「気持ち」は人が生きる上でとても重要ですよね。
なので、なんとか「気持ち」を理解するために
「発生元」についてさまざまに研究されています。
ジェームズ・ランゲ説
「悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しくなるのだ」という言葉で有名な
「身体反応が先にあり、心は後から追いかけてくる」という情動理論を
『ジェームズ・ランゲ説』といいます。
それまでの心理学では、何らかの刺激(ストレス)がそのまま心的反応を起こすと推測していました。
しかし、ジェームズとランゲは、
「先に筋肉の収縮などの身体反応があって、その身体反応が脳に伝達され、感情が生じる」
と唱えました。
「悲しいから泣く」という『情動→身体変化』ではなく、
「泣くから悲しくなる」という『身体変化→情動』の順路を提唱しました。
ジェームズ・ランゲ説は「末梢起源説」とも言われます。
キャノン・バード説
この「ジェームズ・ランゲ説」を否定する仮説が
「キャノン・バード説」です。
刺激の伝達に関して、
「大脳がまず活性化することで情動が生じ、その後「視床下部」に伝わることで身体反応が起きる」
という神経伝達の機序を示し、「ジェームズ・ランゲ説」を否定しました。
刺激に対する評価が脳で行われて感情が生じ、その後感情によって身体反応が生じると唱えました。
キャノン・バード説は「中枢起源説」とも言われます。
この2つの学説は古典心理学で、非常に古い学説なのですが、未だに明白な解明がなされておらず、
「刺激・身体反応・心理作用」という感情の発生の1つの仮説としてそれぞれ受け継がれています。
それぞれ「部分的に」認められています。
情動の二要因説
上記の2つの仮説は部分的に当てはまる場合があるものの、
同一の身体反応で異なる感情を抱く場合をうまく説明できません。
例えば、「心拍数が上がる(ドキドキする)」という身体反応が起きた場合、
感情は「怖い」のか「不安」なのか「楽しい」のか、いくつか考えられますよね。
そこで生み出された仮説が「情動の二要因説」になります。
「情動の二要因説」とは、
「情動の生起は、“身体か脳か”という一因ではない」とする仮説です。
「情動の二要因説」では、身体反応にあたる「生理的反応」と、その「解釈」の双方が関連して情動が決定する、という仮説です。
つり橋効果
情動の二要因説を表したものに「つり橋効果」があげられます。
これは高所にあるつり橋を渡る際の生理的反応(恐怖による心拍数の増加など)を、
ともにつり橋を渡る異性への恋愛感情として誤って解釈してしまうという現象です。
生理的な身体反応は同様であっても、
「身体反応がなぜ生じたのか」という原因に対する解釈の結果に応じて、
異なる感情が生じるということを示しています。
現在まで解明されていない
情動のメカニズムは現在まで解明されていません。
みなさまもご経験に照らすと、きっと「どのパターンもある」と感じられる方が最も多いのではないかと思います。
この記事のテーマに戻ると、「泣くから悲しくなる」は本当かというと、
「そういう場合はあるが、全てがそうとは限らない」というのが答えになります。
心理学の面白さ
心理学が非常におもしろいのは、今回の諸説のように、1つの学説が正しいとされることがなく、
他にも仮説が出続けるというところです。
人体はとても不思議なものなのでしょうね。
なので、たった1つの対処法や学説を絶対的に唱えている人がいたら、
「偽心理カウンセラー」だと思って良いと思います笑。
実生活での活用法(ジェームズ・ランゲ説)
では、これを実生活でどのように活用できるか考えたいと思います。
ジェームズ・ランゲ説を少し広げると「考えるより行動を」という立場になると思います。
「悲しくても笑おう」のような「表情の操作」も含めて、広く「行動が先」とした場合の実生活での活用法を考えてみます。
心理学的には「情動」と「感情」も厳密には異なりますが、ここでは一般的な「感情」に広げて進めたいと思います。
『情動理論』の枠を寝子が勝手に超えていきますこと、ご了承ください笑
心に反して行動する場合
「心が沈んでいるときに活発な行動をする」というケースをベースに考えていきます。
感情よりも行動を優先した方が人の心を健康に導く場合というのは、
「精神状態が比較的良い場合」だろうと思います。
逆にいうと、重いうつ病などの「精神状態が悪いとき」に「感情に従わずに行動を活性化する」というのは危険ですし、
場合によっては禁止にするくらい控えた方がよいこともあると思います。
さらに、『過剰適応』によく見受けられますが、「しんどくても、いつも笑顔でがんばることが普通」というような、
表情と気持ちが一致していない状態が長く続くことは、非常にストレスになります。
「常に上向きになる行動を」というのは不健康になってしまう危険性があります。
ですので、「沈んだ気持ちよりも上がる行動を」ということが有効な場合は、
全体的なストレスが比較的少ない場合に限ると思います。
また、限定された場面であれば感情をコントロールでき、有効だと思います。
ポイント
「行動→心」が有効に作用する場合
・状態が比較的良いとき
・限定的に用いる
「限定的に用いる」場合の代表例が「仕事」かと思います。
多少具合が悪くても不機嫌でも、笑顔を作ると気持ちも落ち着けることがあります。
ただ、「いつもどんなときも」ですと、先ほど述べたように本心と解離してしまいますので、
仕事が終わったら愚痴を話す、真顔になるなど、あくまでも「本心を一瞬コントロールする手段」として活用すると安全かなと思います。
いつも無理に笑顔で感じよく接し続けるとストレスになると書きましたが、
ご自身の中で「本当は嫌だけど笑顔で接しよう」と、
本心に気づいている上で、社会適応的に振舞うのであれば、バランスが比較的取り易くなれると思います。
心配なのは、
「本当はすごく疲れているのに“こんなんで疲れていちゃダメだ”」
「本当は嫌っているのに気づいていない」
というようなご自分の気持ちを否定して行動は適応的にしている、という場合かと思います。
そのようなときは、少し立ち止まってご自身の気持ちを拾ってあげられるといいかもしれません。
身体を癒す有効性
「身体反応→心」という順路は、遣い方によっては非常に良い治療効果を心にもたらします。
身近な例でいうとマッサージやヨガなどを思い浮かべるとピンとくるかと思います。
心理療法でも、身体から心にアプローチする療法は発展しています。
先ほどの「つらくても笑顔で」という「ポジティブ推し」のような、
どちらかというと「心の不調は気にせずに“活発な”行動をする」という場合には、
使用の仕方には注意した方がいいかもしれません。
けれど、
「心が不調だから、身体をほぐそう」
「心はよくわからないけれど、身体がスッキリしそうなことをしよう」
という『身体のケア』は、心にもとてもポジティブな作用となることが多いので、
お勧めです。
実生活での活用法(キャノン・バード説)
では、逆のケースを考えていきます。
「悲しいから泣く」「楽しいから笑う」という情動に添った行動を考えるとき、
本来は、小さい頃からそのように生きられていたら、とても健康的なのではないかと思います。
ですから、私は、基本的に、感情を大事にし、優先して、行動は感情と擦り合わせていきたいと考えているタイプです。
ただ、感情をのびのびと表現して生きられた人は決して多くないと思います。
その場合、感情を抑圧していればしているほど、大人になって出たときの反動が大きくなる傾向があります。
治療的側面
感情の抑圧を長くせざるを得えず、何らかの病気になったときや、精神的な混乱が落ちついたゆえの負の感情の表出の場合、
できれば我慢せずに、泣いたり怒ったりしながらアウトプットできるといいと思います。
抑圧してきた感情が出るときには、ポジティブな感情よりも先に
「落ち込み」や「怒り」「不安」などの苦しい「負の感情」が出てきます。
苦しいですが、出てきた「負の感情」を抑え込んで「我慢して笑顔に」としてしまうと、
「嬉しい」「楽しい」などのポジティブな感情も抑え込まれたままになってしまいます。
なので、丁寧に出せそうな範囲で出していけるといいかなと思います。
注意ポイント
ただ、心を健康に導くために「負の感情」を出すには、「安全な場」であることが必要です。
二次加害や何かトラブルに巻き込まれるような危険性がない場所と相手であることが重要です。
「安全な場」の代表例が「カウンセリング」や「病院」になると思います。
また、長期的には大切な過程ですが、短期的にはご本人に負担がかかることでもあります。
専門機関でなくとも、信頼できる人や場所があれば、それらをぜひ頼りにしてほしいと思います。
他者との関係性を変える
少し応用といいますか、必ずしもそうであるわけではないけれど、
「気持ちと行動を一致させる」ことで、
他者との関係が変わることがあるかもしれません。
例えば、「内心は嫌だと思っていても笑顔で仕事を引き受ける」という場合、素晴らしい能力ですが、
場合によっては「喜んでやってくれている」と誤解され、業務量がどんどん増えてしまうということがあると思います。
そういう場合に、あからさまに不機嫌になることはないと思いますが、
態度と気持ちを少しだけ一致させてみましょう。
「笑顔」を「真顔」にする。
「いいですよ!」と快く返事していたところを「返事まで間をあける」
嫌なことを頼まれたら「真顔になって5秒止まろう」
その後に引き受けてもいいと思います。
「断ることができない」場合、いきなり「断ろう」としなくていいと思いますし、
仕事であれば引き受けなくてはいけないことも多々ありますよね。
最終的な行動は同じでも、返事をするまでの態度を少し変えるだけで、相手にも少しは伝わりますし、
「心と表情の解離」が解消されてストレスが少し減るかもしれません。
また、「○○が嫌で…(嫌そうに話す)」「△△が好きなんだ!(嬉しそうに)」というように、
気持ちを率直に誰かに話すことは、その人との心の距離を縮める作用があります。
加えて、よく「Iメッセージで伝えましょう」というアドバイスを聞くように、
「あなたは~だから」という言い方よりも「私は~が悲しい」と話した方が伝わりやすいとされていますね。
厳密な「キャノン・バード説」から少し外れてしまったかもしれませんが、
時には感情的に訴えることでやっと伝わることもあります。
感情の扱いは注意が必要なこともありますが、注意するためにも、
まずは気づいて認めてあげたいと思っています。
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私のブログはさほど読まれていないので、
読んでくださったほとんどの人が押してくださっているんだなと思うと、
「人って優しいんだな…」と感動の涙が止まりません!
今回は「情動はどのように生じるのか」に関する基礎心理を材料に、
日常での活用法を簡単にご紹介しました!
行動や認知を変えることで気持ちも変化すると思います。
逆に気持ちによって思考や行動も変わりますよね。
ただ、「コントロールし過ぎようとしなくていいかも」という視点ももっておけるといいかなと思っています。
思考も感情も行動も、あんまりコントロールしようとしてしまうと返って不健全かなと思いますので、
気に入った知識だけ取り入れて、あとはスルーしていいと思います!
今回も最後までお読みくださってありがとうございました!!
今日から9月ですね。
季節の変わり目は体調を崩しやすいので、みなさま、心身を一層大切になさってくださいませ。
またのお越しをお待ちしております♪