今日は、いつもは心理士として支援者側にいる自分が、
患者になって考えたことを軽く綴りたいと思います。
入院中の体験
今回の病気は、私のそれまでの人生で最も重い身体疾患でした。
手術をしたのは人生初です。
「精神疾患と身体疾患の違い」なども、一経験者として感じ考えたりしていました。
そして、支援を受ける身になり、支援者側の態度や姿勢などに改めて敏感になったことで、心理士としての我が身を振り返っておりました。
その中で、わかりやすかった出来事をとりあげて、
「励ますって難しいんだな」と感じたことのお話しです。
「歩く」練習で
手術が終わって2日後には「歩けるなら歩きましょう」ということだったのですが、
私は術後感染症になってしまい、スムーズな回復過程にはなりませんでした。
なので、本来なら「歩いてみましょうか」という日は、
「まだそれどころではない」状態だったのですが、
「座ってみますか?」等という看護師さんの声かけがあり、私は「できれば歩いてみたい」と言いました。
看護師さんは迷いながらも私の意向にそってくださり、座って立って歩く、という試みを支援してくれました。
歩くという初日の試みは、ベッドから病室の出入り口までのほんの短い距離で往復で10歩程度だったと思います。
その数歩を、私は身体に入っている管を引きつれて、点滴のガラガラを持ちながらヨタヨタと歩きました。
看護師さんの励まし
担当の看護師さんは日によって替わるので、その日の看護師さんも初めて会う方でした。若くて一生懸命で好感を持っていました。
その看護師さんが、私がヨボヨボとベッドと部屋の出入り口を往復した後で、
「そんなに具合が悪い状態で歩いたこと、
自信にしてください」
と控えめに、でも心からはっきりと2度も言ってくれました。
私の捉え方
まっすぐに、でも押し付けがましくなく、「自信にしてください」と言われた私は、
・・・・え???・・・・・
と、目が点になってしまったのです。
看護師さんはそれに気づきませんし、私も何も言いませんでした。
どうして私が驚いてしまったかというと、
「たかがこんな数歩をヨタヨタ歩いたくらいで
自信になんてできねぇよ」
と思ったからです。
これは、看護師さんへの非難では決してありません。入院中、他の場面で他の支援者に嫌な対応を取られてダイレクトに不満に思ったこともありましたが、このケースは違いました。
その看護師さんは本当に真剣に、ポジティブな意味で言ってくれたのだと私にも伝わっていましたので、傷ついてはいませんし、そのお気持ちは嬉しかったです。
けれど、だからこそ、違和感を抱いたことに「人を励ますって難しいな」と心理士の立場になって考え直してしまいました。
当事者とのズレ
看護師さんは、日々、もっと重い患者さんや、術後できるだけ早いうちに「歩いた方がいい」といってもできない人や、やろうとしない人などを多く見ているのだろうと思います。
だからこそ、純粋に私のチャレンジを褒めてくださったのでしょう。
一方で、私は、他の術後の患者さんを知らないし、知っていたとしてもそれと自分は別であるし、
何よりも、私は過去の私しか本当には知りません。
だから私にとって、ベッドから病室の出入り口までなんて、歩いたうちには入らなかったのです。
こんな程度で「すごい」みたいな対応をされると、
「いや、こんなんじゃ困るんですけど」という気持ちにしかならなかった。
普通に歩ける体験しかしてこなかった私にとって、「自信にしてください」という励ましは的外れであったのです。
強いていうなら「今日歩けたので明日は廊下一周できるかもしれないですね」のような、
「普通に歩ける」ことに繋がる声かけだったら違和感は感じなかったかもしれないです。
決して「完璧な声かけをしてほしい」なんて言ってるわけじゃないんです。
私自身、支援者としてそんなことできませんから。
ただ、「的外れな励ましを私もやってしまっているんだろうなぁ…」と振り返るきっかけになった出来事でした。
態度・姿勢
それでも、支援者の1人1人の態度や思いは患者には伝わるものですね。
私はこの看護師さんに好感を持ち続けていて、別の日に担当してくれたときは、他の人は言ってくれなかった薬の飲み方と副作用などを教えてくれ、「やはり良い看護師さんだなぁ」と思ったものです。
なので、人の気持ちを完璧に知りえることなど不可能なのだから、多少的外れな声かけをしたとしても、
真摯に誠実に向き合っていれば、大丈夫なのだろうとも思いました。
心理士として
私もついクライエントさんを励ましたくて「がんばりましたね」「良くなられていると思います」等と、ポジティブな返答をしています。
ただ、クライエントさんは、もしかしたらそのポジティブな返しに違和感を感じているかもしれないこと、
そう言われてもご自身ではそうは思えないかもしれないこと、
「もっとできないと困るのに」と若干の反発を感じていることもあるかもしれないこと、
そんな可能性があることを忘れないようにしようと思いました。
そして何より、押しつけがましさはダメ!!
たまに支援者で「自信にしなさい!」「自信をもって!」等と強い口調で言い切る人がいますが、
やっぱりこれはダメだなぁとも再認識しました。
この記事の看護師さんは本当に控えめな励まし方だったことで、不快にはならなかったし、おかげで自分を見直すきっかけにできました。
でも、「ポジティブの押し売り」をされていたら、不快になっていただろうなと思います。
そもそも「自信」という言葉は、心理士はあまり使用すべきではないと思っています。(看護師さんなどは良いかと)
自信
話がそれますが、前にも他の記事で書いた気がしますが、
「自信」というのは、私は扱わなくていいと思っています。考えなくていい。
「自信」をストレートに扱ってうまくいく場合は、そもそも自信があって、「もっともっと自分に自信を持ちたい」という場合で、本当に自信がないわけではないと私は考えています。
精神科や心療内科などで出会うクライエントさんは、本当に自分という存在に意味を感じられない場合が少なくありません。
そういうケースに、「自信をもってるかどうか」なんて、考えさせるだけ疲れさせて、さらに自己嫌悪を招いてしまったりします。
強いていうなら、「自信をもてるように」とアプローチするなら、「自信」という単語は出さずに
「その人が好きな事を聞きだす」「好きな事を強化し、嫌いなことを肯定する」ということで、可能だと思います。
状態が苦しいほど、抽象的な声かけやアプローチより、具体的で細かく丁寧な関わりが必要になってきますよね。
嬉しかった言葉
患者になって「ああ、これは良いな」と感じたのは、こちらの具合が良いとき「良くなって○○ができました」等と話したとき、
治療者側が「良かった!」と心から言ってくれると、嬉しいものですね。
私は今回患者になって、主治医にこう言われたとき、嬉しかったです。
同時に、「この先生は患者を良くしようと心から努めてくれているんだ」という信頼感も深まりました。
この独り言のような「良かった」という言葉は、私もよく何気なく臨床現場で言っていたことで、自分が言われたときにポジティブに働いたので、重ねて嬉しく思いました。
ただ、身体疾患と精神疾患の違いはあると思います。
精神疾患ですと、それが無理をしていたり、「何か前進していないといけない」といったもので、実は苦しみが隠れていることが珍しくありません。
そのため、心理士は素直にその「良くなった」を支持するよりも、その裏を探ろうと「無理していませんか?」「その後にぐっと具合が悪くなりませんでしたか?」といった返答をする傾向があるように思います。
確かに、そういう可能性はあるし、そこを話題にすることも必要でしょう。
でも、患者さんが嬉しそうに「良くなった」等と話した際には、支援者はまずは共に喜んでいいのではないかと思いました。
それが無理していたのかどうかといった検討は、喜んだ後でいい、
せっかく報告してくれた「良さ」に水を差すようなことを真っ先に言うことはないと改めて感じました。
マニュアル化できない態度
大学院のころ、「クライアントは目の前のカウンセラーが自分の利益になるかどうか、極めて敏感に見極めている」と教わりましたが、その通りだと思います。
身体疾患ですが、自分が患者になってみて、口には出さないけれど、見抜こうなんてしなくても、目の前の支援者がどういう姿勢で職務に就いているか伝わるものですね。
精神疾患であれば尚更だと思います。
最近、心理の世界は「エビデンス、エビデンス」と叫ばれるようになり、
「傾聴」や「肯定的関わり」といったものは「不確かであてにならないもの」のように扱われている気がしています。
確かに、職務における態度は抽象的であるがゆえに、個人個人で差が出てしまい、マニュアル化できないために、確固とした治療方法になりがたいという弱点があります。
けれど、実際は、真摯に「傾聴」しようとすればするほど、それは大変な技術と労力が必要です。
「肯定的関わり」も、私自身も含めて実際にどれほどの心理士ができているのか疑わしいものです。
CBTのようにマニュアル化できない「態度」のようなものは、本当にものすごく重要で、どんなエビデンスがある療法よりも労力が必要で、治療効果を下支えするものです。
そんなことを改めて感じ、今後の臨床活動に生かそうと思った入院生活の一部を綴らせていただきました★
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最近は、気候が過ごしやすく助かっています。
今年は梅雨入りが早そうで、
「梅雨の時期の過ごし方」の記事もあるので、よろしければお立ち寄りください♪
今日もお付き合いくださってありがとうございましたm(__)m
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